ファッションと環境問題:服の生産から廃棄までを知る
ファッション産業が環境に与える影響を知る
私たちの生活に欠かせないファッションは、自己表現の手段であり、文化の一部でもあります。しかしその一方で、ファッション産業は世界で最も環境負荷の高い産業の一つとも言われています。衣類を生産し、消費し、そして廃棄するまでの一連のプロセスは、水質汚染、化学物質の使用、大量の廃棄物、そして温室効果ガスの排出など、様々な形で地球環境に影響を与えています。
特に近年広まった「ファストファッション」は、トレンドを素早く取り入れた安価な商品を大量に生産・販売するビジネスモデルであり、この環境負荷をさらに加速させていると指摘されています。短いサイクルで大量に生産され、そしてすぐに捨てられる衣類は、地球の資源を大量に消費し、環境に大きな負担をかけています。
環境問題に関心を持つ上で、この身近でありながらも見えにくい「服の裏側」を知ることは、非常に重要です。ここでは、ファッション産業が環境に与える影響を多角的に理解するための、おすすめのドキュメンタリーと書籍をご紹介します。
おすすめのドキュメンタリーと書籍
ファッションと環境問題について深く学ぶためにおすすめしたいのは、以下の作品です。これらの作品は、問題を提起するだけでなく、その背景や構造、そして私たちにできることについても示唆を与えてくれます。
ドキュメンタリー: 『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』(2015年)
-
作品概要: このドキュメンタリーは、今日のファストファッションがもたらす真のコスト、つまり「見えない犠牲」に焦点を当てています。安価な服がどのように作られているのか、その裏側にある劣悪な労働環境や、環境破壊の実態を世界各地で取材しています。バングラデシュの縫製工場、インドの農薬汚染された綿花畑、そしてアメリカの大量廃棄される古着など、ショッキングな現実が映し出されます。
-
環境問題のどの側面に光を当てているか: 主に、ファストファッションのビジネスモデルが引き起こす大量生産・大量消費の問題、そしてそれに伴う資源の過剰な利用、化学物質による土壌や水質の汚染、大量の繊維廃棄物に焦点を当てています。特に、綿花栽培における大量の農薬使用や、衣類の染色・加工による水質汚染は、具体的な映像を通してその深刻さが伝わってきます。労働問題にも触れられていますが、環境への影響も重要なテーマとして扱われています。
-
この作品から何を学べるか: この作品を見ることで、私たちが普段何気なく買っている服が、地球上のどこかで環境に大きな負荷をかけ、人々の生活に影響を与えている現実を痛感するでしょう。「安さ」の裏側にある真のコストを理解し、自身の消費行動を見直すきっかけを与えてくれます。ファッションと環境問題のつながりを視覚的に捉えたい方にとって、非常に強力な入門となる作品です。
書籍: 『ファッションはなぜ環境を破壊するのか』(リベカ・サルカル/著、関美和/訳)
-
作品概要: ジャーナリストである著者が、ファッション産業全体が環境に与える影響について、幅広いデータや事例を元に体系的に解説した書籍です。原料の生産から製造、輸送、販売、消費、そして廃棄に至るまでのサプライチェーン全体を通して発生する環境問題を掘り下げています。
-
環境問題のどの側面に光を当てているか: この本は、ファッション産業が引き起こす環境問題の全体像を網羅的に扱っています。水の使用量、化学物質汚染、温室効果ガス排出、大量廃棄といった主要な問題に加え、マイクロプラスチックの問題や、生物多様性への影響など、多岐にわたるテーマがデータに基づいて解説されています。特定の側面に偏らず、問題の構造やメカニズムを深く理解することを目指しています。
-
この作品から何を学べるか: ファッションと環境問題について、より詳細で網羅的な知識を得ることができます。ドキュメンタリーで感じた問題の深刻さを、具体的なデータや事例によって裏付け、構造的に理解することを助けてくれます。個人の消費行動だけでなく、産業全体の課題や、それに対する取り組み(サステナブルファッションの動向など)についても触れられており、問題解決に向けた様々な視点を得ることができます。
書籍: 『服をめぐる冒険:文化・歴史・社会』 (小澤京子/著)
-
作品概要: 本書は、衣服というものを文化、歴史、社会、そして環境や倫理といった多角的な視点から読み解いていく一冊です。単に環境問題に特化しているわけではありませんが、「衣服」という存在が、いかに社会や環境と深く結びついているのかを、豊富な知識と示唆に富む筆致で描いています。
-
環境問題のどの側面に光を当てているか: 直接的に環境負荷のデータを詳述するタイプの本ではありませんが、大量生産・大量消費という現代のファッションの仕組みがどのように生まれ、社会に根付いていったのかという歴史的・文化的な背景に触れる中で、自然と環境への影響や倫理的な問題が浮かび上がってきます。衣服の「使い捨て」が当たり前になった現代社会のあり方そのものに問いを投げかけます。
-
この作品から何を学べるか: ファッションと環境問題を、単なる技術的な問題や経済的な問題としてだけでなく、より広い人類の文化や歴史、社会のあり方の中で位置づけて理解することができます。なぜ私たちは服を大量に持ち、そして簡単に手放すようになったのか、その根本的な問いに向き合うことで、環境問題への理解を深めると同時に、ファッションとの健全な関わり方について考えるきっかけを得られるでしょう。
まとめ
ファッション産業が環境に与える影響は、私たちが普段意識している以上に大きく、複雑な問題です。今回ご紹介したドキュメンタリー『ザ・トゥルー・コスト』は、その深刻な現状を視覚的に訴えかけ、問題の入り口として強く心に響くでしょう。そして、書籍『ファッションはなぜ環境を破壊するのか』で知識を深め、『服をめぐる冒険』でより広い視野から問題を捉えることで、ファッションと環境問題に対する理解をより確固たるものにすることができます。
これらの作品を通して、普段身につけている服が、私たちの生活だけでなく、地球やその未来と深く結びついていることを感じていただければ幸いです。そして、この知識が、環境に配慮したより良い選択をするための第一歩となることを願っています。